2019年2月25日、北海道ヘルスケア産業振興協議会の研究会におきまして、「世界最先端のデジタル国家 エストニアにおけるヘルスケア事情」のタイトルで講演を行いました。 当日の資料(PDF、ファイルサイズ約8MB)をご希望されるジェアディス会員の皆さま、および当協議会の研究会等にご協力頂いている皆さまは、下記のお問合せページよりご連絡ください。原則、電子メールでお送りします。 お問合せ http://www.jeeadis.jp/contact.html ジェアディスでは、2019年度の活動に向けて賛助会員を募集しています。 企業賛助会員:年会費50,000円 個人賛助会員:年会費5,000円 特典:協議会主催セミナーへの招待、セミナー資料等の共有など ジェアディスの紹介と入会案内 http://www.jeeadis.jp/about-jeeadis.html 皆さまのご参加をお待ちしています。 一般社団法人 日本・エストニアEUデジタルソサエティ推進協議会 (略称:JEEADiS ジェアディス) http://www.jeeadis.jp/ 写真(エストニア政府通信ユニット) 「eサービスには、ユーザーを識別するための信頼できる安全な方法が必要です。エストニアは、20年間にわたり市民の日常生活を簡素化するためにデジタル社会とeサービスを構築しました。信頼できるデジタルアイデンティティが、エストニアのイノベーションと起業家精神を促進しました」とラタス首相は述べています。 また、公共部門がイノベーションと新しい技術の導入を刺激するための模範を示すことができるとも述べています。エストニアのICT政策の基本方針では、政府・公共部門の役割を重視しています。デジタル国家を実現する際には、民間と連携しながらも、国が率先して自ら模範を示すことで、民間のイノベーションを促進してきました。 写真(エストニア政府通信ユニット)
ラタス首相は、次のように語ります。 「政府が、イノベーションを促進する起業家の環境を確保しなければならない。自動運転であろうと人工知能であろうと、法律は急速な技術開発に遅れないようにしなければならない」と。 この指摘は、非常に重要です。エストニアでは、1990年代から法律の近代化を進めて、現在も日進月歩で法律を改正しています。エストニアの法制度は、人々の幸福を最大化するために、コンピュータがその能力を発揮しやすいように設計されています。オンラインのデータ処理と自動化を前提とした住民登録法(Population Register Act)や公共情報法(Public Information Act)は、その代表例です。 さらに、ラタス首相からの「より効果的な欧州の単一デジタル市場では、サイバー脅威との強固な戦い、そしてもちろん、国境を越えたデータの自由な移動をサポートする強力なデジタルIDが必要」という指摘も重要です。 日本でも、2019年1月31日に、トラストサービス検討ワーキンググループ(第1回)が開催されて、「人の正当性を確認できる仕組み、組織の正当性を確認できる仕組み、モノの正当性を確認できる仕組み、データの存在証明・非改ざん証明の仕組み、データの完全性と送受信の正当性の確認を組み合わせた仕組み」などの検討が始まりました。また、個人情報保護委員会等の尽力により、日本とEU間の相互の円滑な個人データ移転を図る枠組みが、2019年1月23日に発効したところです。 今後は、デジタルアイデンティティを始めとしたトラストサービスについても、日本とEU間の相互運用を可能にすることで、日EU間の円滑な個人データ移転における安全性・信頼性・実効性を確立していくことが大切と考えます。その際には、エストニアにおける「法律の近代化」の取組みを参考にしてもらえればと思います。 2018年12月に、フィンランドのデジタル処方箋(電子処方箋)がエストニアでも有効になりました。フィンランド住民は、自国の医師に発行してもらったデジタル処方箋を利用して、エストニアの薬局で医薬品を購入することができます。2019年内には、エストニア住民も、エストニアのデジタル処方箋を使い、フィンランドの薬局で医薬品を購入できるようになる予定です。 EUでは、国を越えた医療サービスへのアクセス、いわゆる「クロスボーダー医療」の実現を目指しています。デジタル処方箋の標準化・相互利用も、その一つで、フィンランドとスウェーデンなど北欧諸国間での相互利用も進みつつあります。 エストニアの電子処方箋を直接規定するのは、医薬品法(Medicinal Products Act)ですが、同法では、EU加盟国等で取得した薬剤師の資格の取り扱いなども定めています。また、保健医療サービス組織法(Health Services Organisation Act)には、国境を越えた医療サービス提供についての規定があります。 今後は、上記の法律を改正することで、認可された国の機関が、他のEU加盟国とデジタル処方箋だけでなく、個人の医療記録を交換できるようになる予定で、「クロスボーダー医療」の本格的な実施が、この1-3年で確実に進むことでしょう。 実際、EUでは、 2021年末までに加盟国内で電子処方箋と患者サマリーを交換する予定で、そのうち10加盟国(フィンランド、エストニア、チェコ、ルクセンブルク、ポルトガル、クロアチア、マルタ、キプロス、ギリシャ、ベルギー) では、2019年末までデータ交換を開始する可能性があります。 ところで、エストニアの電子処方箋が成功したのは、いくつかの理由があります。
1 国のデジタル戦略・医療戦略・eヘルス戦略に基づく取組みであること 2 導入・運営の主体がeヘルス財団(と健康保険基金)に統一されていること 3 医療機関に医療データの登録が義務付けられていること 4 公的医療保険における初期医療の仕組みが制度化されていること 5 個人番号制度を基礎とした情報連携の仕組みが確立していること まず、旧デジタル戦略の中でeヘルスの分野があり、電子処方箋(e-Prescription)の実現が明記され、必要なシステムを構築しました。エストニアには、同じようなシステムを重複して作らせない仕組みがあるため、電子処方箋システムの予算は約24万ユーロ(約3千万円)と非常に低価格です。 eヘルス財団(現在は別組織へ移行)は、医療システムに関するエストニア政府の電子ソリューションを開発し、eヘルスの各種サービスを作成・提供する組織です。社会省(日本の厚労省に該当)、北エストニアメディカルセンター、タルトゥ大学病院基金、東タリン中央病院、エストニア病院協会、エストニア家庭医協会、エストニア救急医療サービス連合などが参加し、2005年10月に設立しました。 電子処方箋の管理・運営は、唯一の公的医療保険者である「エストニア健康保険基金」に統一されているので、システムの乱立も起きず、データの標準化(国際標準を採用)にも問題はありません。 各医療機関には、その規模に関わらず、医療データの電子的な登録が義務付けられているので、医療機関側に電子化するかどうかの選択肢はありません。また、公的医療保険では、すべての市民(被保険者)が、かかりつけ医(一般開業医、県知事が任命)を登録する必要があり、専門医の診察にはかかりつけ医の紹介が必要になっています。そのため、患者にとって最も身近である地域の診療所ほど、電子化が進むことになります。かかりつけ医が電子データを取り扱えないと、専門医に紹介するための情報連携もできないからです。 エストニアでは、日本のマイナンバー制度と異なり、個人番号制度を基礎とした情報連携の仕組みが確立し、医療分野もカバーしています。患者はもちろん、医師や看護師の識別・資格確認も、個人番号がそのまま使われています。ただし、医療データは個人データと分離して(coding)保存されます。 エストニアでは、日本のような複雑な医療IDの議論をすることなく、非常にシンプルな仕組みの中で、安全な運用(すでに約10年の実績がある)を行っています。取得が義務付けられた国民IDカード(個人番号を含む電子証明書を格納)による本人確認で、患者だけでなく医療従事者の資格もリアルタイム確認することができます。 日本で電子処方箋を成功させるためには、システムの重複・乱立、過剰な費用発生を防ぐ仕組みを確立し、医療機関における電子データ提供の義務化などを進める必要があるのではないでしょうか。 |
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3月 2024
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一般社団法人 日本・エストニアEUデジタルソサエティ推進協議会
Japan & Estonia EU Association for Digital Society ( 略称 JEEADiS : ジェアディス)
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