エストニアのデジタル国家は、「政府や政治家は信頼できない」ことを前提に作られており、常に「透明性」を重視しています。今回は、日本でも話題になっている「政党や政治資金の透明性」について、エストニアの取り組みを紹介します。
エストニアには、国民や住民を一意に識別できる個人識別コード(個人番号)があります。日本のマイナンバーと大きく異なるのは、エストニアでは個人識別コードを利用して「国民による政府の監視」を実現していることです。 政治家や公務員は、公的な業務を遂行する上で、IDカードやデジタルID(電子証明書)により本人確認を行い、「誰が何の目的で誰の個人データにアクセスしたのか」の履歴を記録する際に、政治家や公務員の氏名と個人識別コードも記録されます。大臣が電子署名した公文書を検証すれば、大臣の氏名と個人識別コードが確認できます。 個人識別コードは個人データですが、法令に根拠がある場合は、公開されることがあります。例えば、eビジネス登録簿(法人等の登記簿)では、政党の登記情報が誰でもオンラインで閲覧できるように公開されています。この中で、カラス首相が在籍するエストニア改革党の情報を見ると、代表権を持つ役員リストの中に、カラス首相(Kaja Kallas)の氏名と個人識別コードが表示されているのがわかります。 さらに画面をスクロールさせていくと、政党の受益者リストもあり、やはり氏名と個人識別コードが表示されます。これは、法人の受益者情報を明らかにすることが、マネーロンダリング及びテロ資金供与防止法で義務付けられているからです。 政治資金の透明性については、専門の監視機関である「党財政監視委員会」が設置されています。党財政監視委員会のウェブサイトでは、政党の財政データが公開されています。選挙で使われるお金については、選挙・候補者ごとに経費の内訳データを検索・表示・取得できます。 金額の大小に関わらず、各政党の全ての収入データも公開されています。寄付者の氏名と生年月日も公開されますが、日本のように寄付者の住所は公開されません。エストニアでは、個人の住所情報は日本より慎重に取り扱われる傾向があります。 党の会計年度報告書はオンライン提出が義務となっており、政党への寄付や支出については、誰でも加工・分析できるように機械可読形式のオープンデータ(JSON形式のAPIを通じて)公開されています。 エストニアでは、公共部門のオープンデータへのアクセスは、国家運営の透明性、国民の参加、経済活性化、研究、公共部門の効率性などに重大な影響を与えるもので、情報社会の基本的な権利の1つとして、憲法や公共情報法で保障されています。 政党の収入源については、法令で厳しく制限されている(抜け道が少ない)ため、日本のような政治資金パーティーは開催されません。エストニアの政党の財政は、そのほとんどが国の支援(政党交付金)と個人の寄付により成り立っています。寄付の規制は日本より厳しく、法人による政党への寄付(企業献金)も法律で禁止されています。また、匿名の寄付、エストニアの永住権や長期滞在資格を持たない外国人からの寄付も禁止されています。そのため、寄付を受付ける際は、寄付者の「氏名と個人識別コード」を取得し記録します。 日本と比べると、エストニアにおける政治資金の透明性は高いと言えるでしょう。デジタル技術を活用して、個人識別コードから政治家や公務員の公務の遂行状況を監視・追跡できる仕組みも確立しています。政府がデジタル化を進める上で、最もデジタル化が必要なのは強い権限を持つ政治家や公務員、警察や検察、裁判官などであることを、日本でも広く認識されるようになることを願います。
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3月 2024
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一般社団法人 日本・エストニアEUデジタルソサエティ推進協議会
Japan & Estonia EU Association for Digital Society ( 略称 JEEADiS : ジェアディス)
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