2018年12月に、フィンランドのデジタル処方箋(電子処方箋)がエストニアでも有効になりました。フィンランド住民は、自国の医師に発行してもらったデジタル処方箋を利用して、エストニアの薬局で医薬品を購入することができます。2019年内には、エストニア住民も、エストニアのデジタル処方箋を使い、フィンランドの薬局で医薬品を購入できるようになる予定です。 EUでは、国を越えた医療サービスへのアクセス、いわゆる「クロスボーダー医療」の実現を目指しています。デジタル処方箋の標準化・相互利用も、その一つで、フィンランドとスウェーデンなど北欧諸国間での相互利用も進みつつあります。 エストニアの電子処方箋を直接規定するのは、医薬品法(Medicinal Products Act)ですが、同法では、EU加盟国等で取得した薬剤師の資格の取り扱いなども定めています。また、保健医療サービス組織法(Health Services Organisation Act)には、国境を越えた医療サービス提供についての規定があります。 今後は、上記の法律を改正することで、認可された国の機関が、他のEU加盟国とデジタル処方箋だけでなく、個人の医療記録を交換できるようになる予定で、「クロスボーダー医療」の本格的な実施が、この1-3年で確実に進むことでしょう。 実際、EUでは、 2021年末までに加盟国内で電子処方箋と患者サマリーを交換する予定で、そのうち10加盟国(フィンランド、エストニア、チェコ、ルクセンブルク、ポルトガル、クロアチア、マルタ、キプロス、ギリシャ、ベルギー) では、2019年末までデータ交換を開始する可能性があります。 ところで、エストニアの電子処方箋が成功したのは、いくつかの理由があります。
1 国のデジタル戦略・医療戦略・eヘルス戦略に基づく取組みであること 2 導入・運営の主体がeヘルス財団(と健康保険基金)に統一されていること 3 医療機関に医療データの登録が義務付けられていること 4 公的医療保険における初期医療の仕組みが制度化されていること 5 個人番号制度を基礎とした情報連携の仕組みが確立していること まず、旧デジタル戦略の中でeヘルスの分野があり、電子処方箋(e-Prescription)の実現が明記され、必要なシステムを構築しました。エストニアには、同じようなシステムを重複して作らせない仕組みがあるため、電子処方箋システムの予算は約24万ユーロ(約3千万円)と非常に低価格です。 eヘルス財団(現在は別組織へ移行)は、医療システムに関するエストニア政府の電子ソリューションを開発し、eヘルスの各種サービスを作成・提供する組織です。社会省(日本の厚労省に該当)、北エストニアメディカルセンター、タルトゥ大学病院基金、東タリン中央病院、エストニア病院協会、エストニア家庭医協会、エストニア救急医療サービス連合などが参加し、2005年10月に設立しました。 電子処方箋の管理・運営は、唯一の公的医療保険者である「エストニア健康保険基金」に統一されているので、システムの乱立も起きず、データの標準化(国際標準を採用)にも問題はありません。 各医療機関には、その規模に関わらず、医療データの電子的な登録が義務付けられているので、医療機関側に電子化するかどうかの選択肢はありません。また、公的医療保険では、すべての市民(被保険者)が、かかりつけ医(一般開業医、県知事が任命)を登録する必要があり、専門医の診察にはかかりつけ医の紹介が必要になっています。そのため、患者にとって最も身近である地域の診療所ほど、電子化が進むことになります。かかりつけ医が電子データを取り扱えないと、専門医に紹介するための情報連携もできないからです。 エストニアでは、日本のマイナンバー制度と異なり、個人番号制度を基礎とした情報連携の仕組みが確立し、医療分野もカバーしています。患者はもちろん、医師や看護師の識別・資格確認も、個人番号がそのまま使われています。ただし、医療データは個人データと分離して(coding)保存されます。 エストニアでは、日本のような複雑な医療IDの議論をすることなく、非常にシンプルな仕組みの中で、安全な運用(すでに約10年の実績がある)を行っています。取得が義務付けられた国民IDカード(個人番号を含む電子証明書を格納)による本人確認で、患者だけでなく医療従事者の資格もリアルタイム確認することができます。 日本で電子処方箋を成功させるためには、システムの重複・乱立、過剰な費用発生を防ぐ仕組みを確立し、医療機関における電子データ提供の義務化などを進める必要があるのではないでしょうか。 コメントの受け付けは終了しました。
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3月 2024
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一般社団法人 日本・エストニアEUデジタルソサエティ推進協議会
Japan & Estonia EU Association for Digital Society ( 略称 JEEADiS : ジェアディス)
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