エストニアでは、2020年3月12日に、新型コロナへの対応として緊急事態宣言(宣言時は2020年5月1日までを予定)が出されましたが、その後の経過について整理しておきます。
なお、エストニア政府は、公用語であるエストニア語に加えて、ロシア語や英語でも情報提供していますが、エストニア語に比べると情報の量・質は劣るので注意してください。 (1)エストニアの現在の状況 2020年4月24日現在、エストニアの感染者数(Confirmed cases)は1605人、死者数は46人、退院者数206名となっています。約130万人の人口に対して、46,281のテストが実施されています。 緊急法に基づき政府(首相が長)が緊急事態を宣言した後は、必要に応じて追加の命令や修正等を下しながら、新型コロナへに対応するための関係法令の一括改正案の策定などを行いました。情報提供については、緊急事態の専用ウェブサイトを設置して、積極的に行っています。 早期の段階で(深刻な状況になる前に)緊急事態宣言を行ったこともあり、新しい感染例数の減少も確認されて、2020年4月22日には、「COVID-19危機出口戦略計画」が政府委員会によって発表されました。政府委員会は、伝染病に限らず緊急事態における司令塔・意思決定機関として機能する組織で、首相や重要閣僚等で構成されています。 今後は、引き続き監視・観察・分析・評価等を行いながら、段階的に制限を緩和して、国民の日常生活や経済活動を元に戻していくことになりますが、まだまだ時間がかかりそうです。実際、2020年5月1日まで有効としていた緊急事態宣言は、5月17日まで延長されることになりました(2020年4月24日政府決定)。 時系列に整理すると、次の通りです。 2020年3月12日 緊急事態の宣言(命令) 2020年3月13日 緊急措置の命令 2020年3月13日 最初のハッカソンイベントを開催 2020年3月14日 緊急事態の地域ユニットリーダーを任命 2020年3月15日 国境管理の再導入(シェンゲン協定の一時的な制限) 2020年3月17日 カジノやスロットマシンホールの閉鎖を命令 2020年3月19日 緊急措置命令の一部修正(リスク国リストの廃止等) 2020年3月19日 労働者と企業を支援する経済的措置を承認 2020年3月20日 緊急事態タスク(必要物資の確保)責任者に財務大臣を任命 2020年3月22日 科学諮問委員会メンバーの承認 2020年3月23日 緊急事態とコロナウイルスの質問に回答する自動チャットボットを開始 2020年3月24日 緊急事態への追加対策の命令(ショッピングセンターの一部閉鎖等) 2020年3月24日 科学評議会による勧告(社会的隔離措置の強化等) 2020年3月25日 緊急事態の新しい制限について全住民に電子メールとSMSを送信 2020年3月26日 感染者やその家族に対する移動制限を命令 2020年3月29日 サーレマー島とムフマー島の緊急措置強化を命令 2020年3月31日 科学評議会からの経過報告(これまでの措置の効果等) 2020年4月2日 COVID-19の管理に関連する法案を承認 2020年4月2日 補正予算案と関係法令改正案を国会提出 2020年4月3日 介護施設における隔離命令の強化 2020年4月3日 店舗・サービスの消毒剤設置等を義務化 2020年4月6日 ウイルス蔓延防止の社会的責任キャンペーンを開始 2020年4月9日 ホームレスの感染者の保護と隔離措置を命令 2020年4月9日 住民登録データに基づくテスト(血清疫学的抗体検査)実施を承認 2020年4月16日 COVID-19拡散マッピングの研究プロジェクト支援を決定 2020年4月22日 COVID-19危機出口戦略計画の公表と国会提出 2020年4月24日 緊急事態宣言の5月17日までの延長を決定 ※緊急事態宣言に関する命令違反には罰則規定がありますが、罰金刑のみで、それほど大きな強制力はありません。 ※宣言に伴う制限については、約8割の市民が遵守すると回答していますが、一部の人たち(特に若い世代が多い)は外出等をしてしまうようです。 ※エストニアの住民登録データベースには、本人への連絡手段として電子メールが登録されています。また、国民IDカードと国民識別コードに紐づけされた公的電子メールアドレスが付与されます。 (2)エストニアの出口戦略と規制制限の緩和 「COVID-19危機出口戦略計画」は、COVID-19の蔓延に起因する状況を克服するための戦略です。戦略の目的は、緊急事態を克服し、通常の生活リズムに戻るための調整された計画を作成することです。戦略は、緊急事態の終結や、感染拡大が止まったことを意味するものではありません。 戦略の発表に関して、2020年4月24日にラタス首相は次のように述べています。 過去2週間で、感染症と入院の新たな症例数が減少し、明らかにピークに達しました。今週、政府は出口戦略の草案を発表しました。これは来週承認されることを期待しています。その後、医学的状況が許せば、制限を徐々に緩和し始めることもできます。ただし、出口戦略は段階的に慎重に行われるため、緊急事態を5月17日の終わりまで延長することを本日決定しました。 この戦略は、短期および長期の両方で緊急事態の影響を軽減するための分野横断的なフレームワークを提供し、異なる部門間の相互作用を考慮に入れています。最新の統計と以前に実施された対策の影響に基づいて、戦略は随時更新されます。 戦略の目的は、次の4つです。 1 人々の肉体的および精神的健康を確保する 2 人々の生活を確保し、通常の生活に戻す 3 ビジネスの存続と競争力維持を支援する 4 国家の機能を確保する もう少し詳しく説明すると ・ウイルスの蔓延を遅らせ、短期および長期の両方で医療システムへのウイルスの影響を軽減する ・緊急事態の制約から生じる、個人の収入、失業、教育、日常生活の影響の可能性を軽減する ・企業に対する制限の影響を緩和する ・重要な財とサービスの供給を必要なレベルに維持する ・緊急事態に関連する制限を順守する人々を支援し、社会の対立を防ぐ 制限の緩和については、その手順について、感染拡大のリスク、時系列および優先順位等で整理されています。 例えば、エストニア人が大好きなサウナについては、感染のリスクが大幅に高まるとされ、制限緩和の優先順位は低くなっているため、早期の緩和は期待できません。制限が緩和された場合の要件として、社会的距離(2メートル)の確保、消毒要件の遵守、従業員等の個人用防護具の確保などがあります。 出口戦略の主要な指標は、次の通りです。 1. 1日あたりの感染者の数とすべての検査を受けた人の比率、50歳以上のグループの感染者数 2.入院中のCOVID-19患者の数。 3. COVID-19による集中治療施設の使用(24時間あたりのベッド数) 4.ヘルスケアへのアクセス状況 5.政府のガイドラインと措置に従う国民の状況 6.経済の全般的な健全性 7.信頼対策を実施する能力 8.地域、EU加盟国および第三国における疫学的状況およびCOVID-19対策 政府委員会は、週に一度、科学者や専門家と協力して規制緩和を検討します。 (3)新型コロナに関するエストニア政府の情報提供 新型コロナに関する情報は、政府通信局が管理する緊急事態の専用ウェブサイト「エストニアの緊急事態に関する公式情報」で入手することができます。 緊急・コロナウイルス、日常生活・基本ニーズ、教育・文化・スポーツ、仕事・経済・ビジネス、旅行・越境、治安・国防、質問・回答など、分野や目的ごとに整理されているので、欲しい情報を比較的容易に見つけることができます。 コロナウイルスの統計情報については、「Koroonaviiruse andmestik(エストニア語)」や「koroonakaart(英語版あり)」で閲覧することができ、データやイメージ等のダウンロードも可能です。 また、コロナウイルスSARS-CoV-2テストの結果も、オープンデータ化(JSON形式、CSV形式)されており、毎日更新されます。 エストニアでは、医師による診察・検査・入退院記録等のデータ提供が義務化されており、国が管理する医療データベース(健康情報システム)に自動的にデータ(かなり詳細)が集まってくる仕組みが確立しています。全住民に付与される個人識別コードで患者を識別しているので、個人単位の追跡調査も可能です。コロナウイルスのオープンデータは、このデータベースからの最新情報に基づいて、保健福祉情報システムセンター(TEHIK)が提供しています。 ヘルスケア関連のオープンデータには、医療機関や医療専門家(医師、看護師等)情報も含まれており、これらのデータを活用して、全ての医師や看護師の氏名、資格登録番号、勤務地、専門が公開されています。こうしたデータの公開は、限られた人的資源の活用や配置の最適化等に貢献しています。 その他、社会問題省(日本の厚生労働省のような組織)にある健康委員会が提供する「Information about Coronavirus disease COVID-19」でも、関連情報を入手できます。健康委員会は、医療・介護従事者向けの各種ガイドライン等も提供しています。 自治体向けの情報は、議会の開催方法(オンライン会議)など自治体の緊急事態対応に関する情報を提供しています。 今回の緊急事態宣言に関連する法令については、法令データベースのサイトで確認できます。 (4)エストニアから学べること 日本における感染者数のピークアウトについては、まだ明確ではありませんが、今後の出口戦略の策定に向けて、日本がエストニアから学べることは、いくつかあると思います。 その中でも、透明性は大切と思います。透明性を実現するためにも、高品質なデータを自動的に収集・活用できる仕組みが必要と考えます。 関連:エストニアのeヘルスと医療データの活用(2019年10月) コメントの受け付けは終了しました。
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3月 2024
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