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エストニアの人口登録簿の個人データ:日本の住民票や戸籍に足りないものとは

29/6/2025

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昨日のセミナーの資料をジェアディスのウェブサイトで公開しました。

エストニアの電子政府事情とわが国の自治体システムのあるべき姿

ここでは、時間の関係で説明できなかった「エストニアの人口登録簿の個人データ」について、少し整理しておきます。

エストニアの人口登録簿の個人データ
1 氏名(名前法に基づく)
2 性別
3 出生データ(生年月日、出生地)
4 個人識別コード
5 市民権・国籍に関するデータ
6 住居に関するデータ
7 追加住所
8 連絡先の詳細(メールアドレス、ポストボックス番号、電話番号)
9 滞在先の住所
10 婚姻状態に関するデータ (独身、既婚、死別、離婚)
11 親権に関するデータ (親権者、保護者、親権の回復・制限・剥奪など)
12 後見に関するデータ (後見人の氏名、後見開始終了時刻、後見人の同意なしに可能な取引など)
13 有効な法的能力の制限、投票権の剥奪に関するデータ
14 死亡に関するデータ (死亡時間・場所、埋葬地、死亡原因など)
15 母親、父親、配偶者、パートナー、子供に関するデータ(個人識別コードなど)
16 教育の最高達成レベル(最終学歴)
17 民族籍、母国語、教育 (※統計目的の任意提出・登録データとして)
b 個人データに関連する文書のデータ (発行した身分証明書、外国人居住・就労許可証、裁判所の決定など)
c 有権者登録データ(有権者リストおよび有権者カードの作成で利用)
d 手続に関するデータ(捨て子に関する情報、結婚時に選択された財産関係など、統計データとして利用)
e 登録簿の維持管理に役立つデータ(データ提供者・入力者、データへのアクセス履歴、分類コードなど)
f 登録簿の非最新データ(関連性を失った個人データ、開催された選挙の有権者登録データなど)
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「エストニアの人口登録簿の個人データ」は、17項目ありますが、加えて「データベースを維持管理するためのデータ」が5項目(図表ではbからfまで)ほどあります。

このうち1から9までのデータは、日本の住民票に含まれるような「居住地に関するデータ」です。現在の「居住地に関するデータ」の主な目的は、住民に行政サービスを届けることです。もちろん、それだけでは無いのですが(例えば住民税の徴収など、あまり嬉しくない目的もあります)、社会福祉や教育など基礎的な行政サービスを住民に確実に届けることができるように「居住地に関するデータ」を政府が把握しておく必要があります。

世界を見ると、居住登録(Resident Registration)を行っていない国もあります。一般的には、その国がいわゆる「小さな政府」を目指している場合、居住登録は採用されません。米国は、その代表例と言えるでしょう。他方、北欧諸国など「高負担高福祉」の国では、居住登録の制度が確立されています。

日本では、明治時代に戸籍制度が作られた時、戸籍の本籍地が居住地情報(住所)も兼ねていました。しかし、公共交通機関の発達や経済成長、職業選択の自由など新しい考え方などの影響により本籍地から離れて生活する人が増えた結果、実際の居住地の戸籍の本籍が一致しないことが常態化してきたので、新たに寄留簿を作成して人の移動を記録するようにしました。

​しかし、寄留簿も実態を反映するものではなく形骸化する中で、戦時中の配給制度で世帯台帳が作成されて、配給品を各世帯に確実に届けられるようにしました。この世帯台帳が現在の住民票や住民基本台帳の元になっており、住民票の記載事項(例:米穀の配給に関する情報)にもその名残がうかがえます。世帯台帳により、戸籍の「戸」という単位に加えて、「世帯」という単位が行政事務において重要な役割を担うようになりました。
​

​続いて、10から15までのデータは、民事(身分・家族関係)に関するデータで、日本の戸籍に記載されるような婚姻・離婚や出生・死亡等のデータに加えて、親権や後見など個人間の権利関係や権利制限等に関するデータも含まれています。親権や後見などの権利関係がリアルタイムで確認できるようになると、その時々の最適なサービスを届けやすくなります。

日本で公金受取口座を赤ちゃんにまで求めているのは、公金受取口座を管理するデジタル庁が個人間の正確な権利関係を把握できないからです。また、このような権利関係をデータとして自動処理するためには、「戸」や「世帯」単位ではなく、「個人」単位でデータを管理する方が適しています。

続く16と17のデータは、「教育の最高達成レベル(最終学歴)」や「民族籍、母国語、(外国での) 教育」となっています。このデータは、統計処理や国勢調査などで利用されるもので、日本の住民票にも戸籍にも無いデータです。

EU加盟国であるエストニアでは、国勢調査を日本のように全件調査で行わず、公的データベースのデータによる国勢調査が基本となっており、それを補うためにサンプリング調査(オンライン、電話、対面など)を実施しています。国勢調査はどの国でも大きな負担になっていますが、日本がエストニアのような統合型の人口登録簿で国民・住民のデータを管理して、他の公的データベースとリアルタイムで連携できるようになれば、国勢調査の負担を大きく減らすことができるでしょう。

最後の5項目(bからfまで)は、登録されたデータの根拠となる文書等のデータ、いつ誰が何のためにデータにアクセスしたのか等の監査に必要なデータなどが含まれます。fの「登録簿の非最新データ」は、日本の「戸籍の除籍簿」や「住民票の除票」と同じような機能を持っています。なお、エストニアの人口登録簿のデータは永久保存となっており、保存期間は定められていません。

このように、エストニアの人口登録簿は、日本の住民票や戸籍と同等以上の機能を備えており、国民や住民の基本的な権利を保護するために利用されています。医療データと連携しているので、家族や親族の届出等が無くても、出生や死亡と同時にデータが登録されるので、日本のような「無戸籍児童」や「存在しない人の戸籍や住民登録者」などの問題も起こりにくくなっています。また、指紋等の生体情報を含む身分証明書の発行等を「身分証明書データベース」や「生体情報データベース」により管理しているので、日本の戸籍のように乗っ取りや売買による背乗り・成りすましも極めて困難になっています。

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日本で今後さらに進んでいく人口減少や少子高齢化、地域の過疎化や自治体消滅などを考えると、自治体の負担を減らすためにも、エストニアのような統合型の人口登録簿を国の責任で管理して、その住民データを各自治体が必要に応じて利用する仕組みが有効と考えています。もちろん、国家安全保障の観点からも、統合型の人口登録簿を推奨します。

以下、参考資料としてのスライドイメージ

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バルト三国の宗教と同性婚について

4/6/2025

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​宗教(やそれに付随する価値観等)は「家族関係のあり方」について影響を与えるので、各国における宗教の現状や変化を観察することは、日本の戸籍制度や選択的夫婦別姓などを考える際のヒントを示してくれるかもしれません。

他方、その国の歴史や文化、憲法や宗教上の価値観を考慮しないまま、「同性婚を認めるべきである」「同性婚を認めないのは遅れている」といった押しつけは、他者の価値観や思想を尊重する本来の多様性と相反する行為なので注意が必要です。

エストニアを含むバルト三国は、共産主義のソ連支配下にある時代はどの国でも宗教禁止が原則でしたが、現在の宗教の事情は国によってかなり異なります。
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写真:Hele-Mai Alamaa  (https://toolbox.estonia.ee/)

エストニア

エストニアは、無宗教が多数派で約6割を占めており(1922年以前は、国民の99.9%がキリスト教)、世界的にも宗教色が薄い国のひとつです。残りの4割で最も多いのがロシア正教(約16%)で、プロテスタント(ルター派)約8%が続きます。カトリックの割合は1%以下でイスラム教の割合と大差がありません。つまり、無宗教を除くと、エストニアの最大の宗派はロシア正教ということになります。2025年6月現在、「バルト三国の中で同性婚を法律で認めているのはエストニアだけ」というのは、無宗教が多数派なので「家族関係のあり方」を修正しやすいのかもしれません。

ラトビア

エストニアの隣国であるラトビアは、何らかの宗教を信仰する人が約7割を占めており、そのほとんどがキリスト教の宗派です。割合は、ルター派36%、カトリック19%、東方正教会(ラトビア正教会)13%、その他のキリスト教徒1.4%となっています。バルト三国の中では、最も北欧諸国の影響を受けていると言えるでしょう。同性婚については、パートナーシップは認めるものの法律婚は認めておらず、ラトビア共和国憲法(第110条)でも基本的人権の保護対象を「男女の結びつきである結婚」とすることで実質的に同性婚を禁止しています。

リトアニア

リトアニアは、バルト三国の中で無宗教の割合(約6%)が最も低い国です。人口の約74%がカトリックを信仰しており、東方正教会4%、ルター派0.56%が続きます。ポーランド・リトアニア共和国の時代もあることから、隣接するポーランドの影響が大きいと言えるでしょう。国内の地域・地区によって宗派の割合は異なりますが、全体としてカトリックの割合は減少傾向にあります。

同性婚については、リトアニアはバルト三国の中で最も消極的です。同性婚のパートナーシップも法制化されておらず、2025年4月の憲法裁判所の命令により「同性カップルに一定の法的権利と利益を与える法律」の制定を命じたことで、裁判所を通じたパートナーシップ登録が可能になったばかりです。リトアニア共和国憲法(第38条)では、「結婚は男女の自由な合意によって成立する」としており、同性婚を実質的に禁止しています。

憲法の条文を読み解くことで、リトアニアの政府や国民が考える「家族関係のあり方」が見えてきます。

リトアニア共和国憲法(第38条)
家族は社会と国家の基盤です。
国家は家族、母性、父性、そして子供時代を保護し、世話します。
結婚は男女の自由な合意によって成立する。
国は結婚、出生、死亡の登録を行います。また、教会による結婚登録も国が認めています。
配偶者は家族内で平等の権利を持ちます。
子どもを高潔な人間、忠実な国民として育て、成人するまで支えることは親の権利であり義務です。
親を尊敬し、老後の世話をし、その遺産を守るのは子供の義務です。


エストニアの選択的夫婦別姓
​
最後に、エストニアの選択的夫婦別姓について紹介しておきます。エストニアの婚姻時の姓(氏)の選択については、名前法という法律で定められており、次のような選択肢があります。複合姓とは、「Yamada-Tanaka」のように自分の姓にハイフン接続で配偶者の姓を追加したものです。

1)両方の配偶者が既存の姓を保持する。
2)配偶者の一方が他方の姓に変更する。
3)配偶者の一方が複合姓を作成して変更し、他方の配偶者は既存の姓を保持する。

1と3の選択肢が「夫婦別姓」ということになります。夫婦間で生まれてくる子供の姓は、夫婦別姓を選択している場合、どちらの姓にするかを夫婦間の合意により決定します。

2000年頃は、結婚時に妻が夫の姓に変更するのが多数派(約7割)で、両方の配偶者が既存の姓を保持するケースは2割ほどでした。しかし、2022年の調査では、妻が夫の姓に変更するケースが47%と半数以下になる一方で、既存の姓を保持するケースは41%と2倍になっています。夫が妻の姓に変更するケースは2%と少数です。現在は、家族内で姓が異なるのは、それほど珍しくないと言えます。

家族構成が変化する中で、「男性も女性も自分たちが正しいと思う姓を決める平等な機会を持っていること」が重要であり、その結果として「伝統が変化することに対しても社会がどこまで許容してくれるのか」を政治的・社会的に確認していくことが大切なのではないでしょうか。
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