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昨日のセミナーの資料をジェアディスのウェブサイトで公開しました。 エストニアの電子政府事情とわが国の自治体システムのあるべき姿 ここでは、時間の関係で説明できなかった「エストニアの人口登録簿の個人データ」について、少し整理しておきます。 エストニアの人口登録簿の個人データ 1 氏名(名前法に基づく) 2 性別 3 出生データ(生年月日、出生地) 4 個人識別コード 5 市民権・国籍に関するデータ 6 住居に関するデータ 7 追加住所 8 連絡先の詳細(メールアドレス、ポストボックス番号、電話番号) 9 滞在先の住所 10 婚姻状態に関するデータ (独身、既婚、死別、離婚) 11 親権に関するデータ (親権者、保護者、親権の回復・制限・剥奪など) 12 後見に関するデータ (後見人の氏名、後見開始終了時刻、後見人の同意なしに可能な取引など) 13 有効な法的能力の制限、投票権の剥奪に関するデータ 14 死亡に関するデータ (死亡時間・場所、埋葬地、死亡原因など) 15 母親、父親、配偶者、パートナー、子供に関するデータ(個人識別コードなど) 16 教育の最高達成レベル(最終学歴) 17 民族籍、母国語、教育 (※統計目的の任意提出・登録データとして) b 個人データに関連する文書のデータ (発行した身分証明書、外国人居住・就労許可証、裁判所の決定など) c 有権者登録データ(有権者リストおよび有権者カードの作成で利用) d 手続に関するデータ(捨て子に関する情報、結婚時に選択された財産関係など、統計データとして利用) e 登録簿の維持管理に役立つデータ(データ提供者・入力者、データへのアクセス履歴、分類コードなど) f 登録簿の非最新データ(関連性を失った個人データ、開催された選挙の有権者登録データなど) 「エストニアの人口登録簿の個人データ」は、17項目ありますが、加えて「データベースを維持管理するためのデータ」が5項目(図表ではbからfまで)ほどあります。 このうち1から9までのデータは、日本の住民票に含まれるような「居住地に関するデータ」です。現在の「居住地に関するデータ」の主な目的は、住民に行政サービスを届けることです。もちろん、それだけでは無いのですが(例えば住民税の徴収など、あまり嬉しくない目的もあります)、社会福祉や教育など基礎的な行政サービスを住民に確実に届けることができるように「居住地に関するデータ」を政府が把握しておく必要があります。 世界を見ると、居住登録(Resident Registration)を行っていない国もあります。一般的には、その国がいわゆる「小さな政府」を目指している場合、居住登録は採用されません。米国は、その代表例と言えるでしょう。他方、北欧諸国など「高負担高福祉」の国では、居住登録の制度が確立されています。 日本では、明治時代に戸籍制度が作られた時、戸籍の本籍地が居住地情報(住所)も兼ねていました。しかし、公共交通機関の発達や経済成長、職業選択の自由など新しい考え方などの影響により本籍地から離れて生活する人が増えた結果、実際の居住地の戸籍の本籍が一致しないことが常態化してきたので、新たに寄留簿を作成して人の移動を記録するようにしました。 しかし、寄留簿も実態を反映するものではなく形骸化する中で、戦時中の配給制度で世帯台帳が作成されて、配給品を各世帯に確実に届けられるようにしました。この世帯台帳が現在の住民票や住民基本台帳の元になっており、住民票の記載事項(例:米穀の配給に関する情報)にもその名残がうかがえます。世帯台帳により、戸籍の「戸」という単位に加えて、「世帯」という単位が行政事務において重要な役割を担うようになりました。 続いて、10から15までのデータは、民事(身分・家族関係)に関するデータで、日本の戸籍に記載されるような婚姻・離婚や出生・死亡等のデータに加えて、親権や後見など個人間の権利関係や権利制限等に関するデータも含まれています。親権や後見などの権利関係がリアルタイムで確認できるようになると、その時々の最適なサービスを届けやすくなります。 日本で公金受取口座を赤ちゃんにまで求めているのは、公金受取口座を管理するデジタル庁が個人間の正確な権利関係を把握できないからです。また、このような権利関係をデータとして自動処理するためには、「戸」や「世帯」単位ではなく、「個人」単位でデータを管理する方が適しています。 続く16と17のデータは、「教育の最高達成レベル(最終学歴)」や「民族籍、母国語、(外国での) 教育」となっています。このデータは、統計処理や国勢調査などで利用されるもので、日本の住民票にも戸籍にも無いデータです。 EU加盟国であるエストニアでは、国勢調査を日本のように全件調査で行わず、公的データベースのデータによる国勢調査が基本となっており、それを補うためにサンプリング調査(オンライン、電話、対面など)を実施しています。国勢調査はどの国でも大きな負担になっていますが、日本がエストニアのような統合型の人口登録簿で国民・住民のデータを管理して、他の公的データベースとリアルタイムで連携できるようになれば、国勢調査の負担を大きく減らすことができるでしょう。 最後の5項目(bからfまで)は、登録されたデータの根拠となる文書等のデータ、いつ誰が何のためにデータにアクセスしたのか等の監査に必要なデータなどが含まれます。fの「登録簿の非最新データ」は、日本の「戸籍の除籍簿」や「住民票の除票」と同じような機能を持っています。なお、エストニアの人口登録簿のデータは永久保存となっており、保存期間は定められていません。 このように、エストニアの人口登録簿は、日本の住民票や戸籍と同等以上の機能を備えており、国民や住民の基本的な権利を保護するために利用されています。医療データと連携しているので、家族や親族の届出等が無くても、出生や死亡と同時にデータが登録されるので、日本のような「無戸籍児童」や「存在しない人の戸籍や住民登録者」などの問題も起こりにくくなっています。また、指紋等の生体情報を含む身分証明書の発行等を「身分証明書データベース」や「生体情報データベース」により管理しているので、日本の戸籍のように乗っ取りや売買による背乗り・成りすましも極めて困難になっています。 日本で今後さらに進んでいく人口減少や少子高齢化、地域の過疎化や自治体消滅などを考えると、自治体の負担を減らすためにも、エストニアのような統合型の人口登録簿を国の責任で管理して、その住民データを各自治体が必要に応じて利用する仕組みが有効と考えています。もちろん、国家安全保障の観点からも、統合型の人口登録簿を推奨します。 以下、参考資料としてのスライドイメージ
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3月 2025
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一般社団法人 日本・エストニアEUデジタルソサエティ推進協議会
Japan & Estonia EU Association for Digital Society ( 略称 JEEADiS : ジェアディス)
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